英国情報局秘密情報部MI6=サーカス。
東西冷戦下、ソ連国家保安委員会KGBと熾烈な情報戦を繰り広げていた。
そんな中、サーカスにKGBのスパイ(もぐら)が入り込んでいるとの情報を受け、
引退した元スパイ、ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)にもぐらを探し
出せとの指令が下る。
念願の「Tinker,Tailor,Soldier,Spy 」(邦題「裏切りのサーカス」)を観に行ってきました。
この映画は公開が予定されていた新作中、一番観たい映画でした。
ですので、ネットや雑誌で情報が出るたびに、じっくり読みたいけれども
我慢して、だいたいのあらすじのみ頭に入れた状態で鑑賞しました。
(以前購入したPaul Smithのシャツを着て気分を盛り上げてみたり←自己満足)
以下、多少長めですが、感想など。
この映画、ワンシーン毎に情報量がかなりあり、見逃している箇所が膨大にあるため、推理的側面の完全把握を目指すなら、ソフトを買って一コマづつストップし
鍵を拾い集めなくてはならないだろう。
しかし、この映画の主眼はそこにだけあるのではない。
説明台詞や状況を語る場面を極限まで削ぎ落とし、更には人物の表情の
変化さえ満足に映さない。
更に推理の醍醐味である謎解きの常套手段を一切使っていない。
先ほども述べたとおり、謎解きの鍵となる説明的なセリフなどはなく、
シーンの中にさり気なく隠されている。
国や時間軸も過去と現在が交差するので、直進的に展開はしない。
しかも、ヒントになるような事が起こった時にさえ、そこに対峙している
人物の表情が隠れて見えないことも。
これでは、何を手がかりに「もぐら」を推理するというのか・・・。
それでも物語は着実に堅実に展開し、そして衝撃のラストへと
観ている者を導いてくれるのである。
そんな飲み込み辛いシーンの連続照射が炙りだすものは、
そんな孤独を敢えて選び、その渦中に身を投じ忠義と猜疑のない交ぜ
になった中で生きる者たちが本当に守ろうとしたものとは・・・。
再三述べるが、これは推理だけを主眼とした映画ではない。
これは孤独を抱える者たちの物語である。
極力抑えられたセリフと表情描写によって張り詰めた緊張感を保ちつつ、
ちょっとした目配せや時折見せる微笑、抑えた末の感情の吐露が、
何倍もの感情表現となってこちらに訴えかけてくるのである。
こういう表現を見せられると、常日頃私たちは何と形骸化し陳腐化した
感情表現や場面を見せられる事に馴れきっているのかと思う。
まさに百戦錬磨のツワモノ役者陣が剣を競うが如く、抑えに抑えた
演技を繰り出し合い、この映画を見事に成立させている。
スパイ映画によくある要素が一切出てこない、地味な映画ではあるけれど、
孤独な人間の心の深淵を覗くには最適の一本だろう。
「ぼくのエリ」で一躍名を揚げたトーマス・アルフレッドソンの面目躍如たる
映像表現に陶酔し切った至福の2時間、十分堪能した次第。
また、原作本は続編があるとのこと、是非映画も続編を期待したい。
と、1回目を観終わった感想を思いつくままに取りとめなく書いたわけですが、
既に購入してある原作本をGW中に読み、推理部分その他を補完しつつ、
2度目に挑戦しようと目論んでいます。
「Tinker,Tailor,Soldier,Spy」
【備忘録的メモ】
5月17日時点で3回鑑賞。
原作本も読了。
以下、ネタバレを含みます。
更に、全くのメモ書きなので取り留めのない文章です。
ようやく1シーン1シーンをじっくり眺める余裕が出てきた。
全体像が判るからの余裕。
どのシーンがどこに繋がるのか、またどんな意味があるのかを味わえた。
ラストシークエンスの神編集は大画面で確認するとより素晴らしい。
あのLa,melの流れるなか、登場人物たちの激情が画面に横溢している感じ!
蜂のシーンも秀逸。
ギラムとスマイリーの性格(捜査、探査方法含む)
の違いを如実に表しているとどなたかのBlogで読んだが、
まさに、その通り。
<今回気づいたこと。>
説明が少ないので、複雑な仕掛けがあるのかと思ったが、
推理のロジックは比較的単純。
ずっと表情も感情も表出させてなかったスマイリー
(眼鏡シーンが象徴しているところの徹頭徹尾観察者としての役割)が
唯一激するシーンはビル(ビルが象徴する英国エスタブリッシュメント)
が余りに青臭い理想主義的で利己的な言い訳に対するものなのでは。
(アンの件ではないと思う)
数少ないスマイリーの感情の発露。
・クリスマスパーティーでのアンとビルを目撃する場面
・ビルとの接見での激昂
・戻って来たアンの姿を見てよろける
スマイリーは感情表現も推理経緯も殆ど表に現さないけれど、
この映画の登場人物中一番全てを把握し理論展開し胸中では
能弁に語っているし、激情家でもあると思う。
全てを胸に収めて淡々行動しているところに本当の冷徹さと怖さを感じる。
であるが故のGオールドマンは完璧なキャスティング
ビルとジムの関係、スマイリーとアン(カーラ)の関係、MI6と国との関係、
英国と米国の関係も?
それぞれの愛憎、忠義と猜疑。
裏切られ愛想を尽かしながらもなお愛さずにはいられないという、
どうしようもないせつなさが苦しい。
スマイリーとカーラの関係は特に敵対しながらもい絶対的な対としての存在。
70年代という世代は純粋に思想的美学を信じる事が出来た
最後の年代ではないか。
冷戦という判り易い構造(どちらにとっても善悪がはっきりしていた時代)
を精神的支柱にして正義を振りかざす事の出来た最後の世代。
ともあれ、この物語は組織に蹂躙された男たちの物語であり、
その悲劇性がより一層あのラストシークエンスのカタルシスを生んでいると思う。
何度観ても、というか観ればみるほど深みにハマる作品。
またもう一度劇場に足を運ぼうかと思う。
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