2012年4月25日水曜日

Tinker,Tailor,Soldier,Spy

【あらすじ】
英国情報局秘密情報部MI6=サーカス。
東西冷戦下、ソ連国家保安委員会KGBと熾烈な情報戦を繰り広げていた。
そんな中、サーカスにKGBのスパイ(もぐら)が入り込んでいるとの情報を受け、
引退した元スパイ、ジョージ・スマイリー(ゲイリー・オールドマン)にもぐらを探し
出せとの指令が下る。

念願の「Tinker,Tailor,Soldier,Spy (邦題「裏切りのサーカス」)を観に行ってきました。
この映画は公開が予定されていた新作中、一番観たい映画でした。
ですので、ネットや雑誌で情報が出るたびに、じっくり読みたいけれども
我慢して、だいたいのあらすじのみ頭に入れた状態で鑑賞しました。
(以前購入したPaul Smithのシャツを着て気分を盛り上げてみたり←自己満足)
以下、多少長めですが、感想など。

この映画、ワンシーン毎に情報量がかなりあり、見逃している箇所が膨大にあるため、推理的側面の完全把握を目指すなら、ソフトを買って一コマづつストップし
鍵を拾い集めなくてはならないだろう。

しかし、この映画の主眼はそこにだけあるのではない。
説明台詞や状況を語る場面を極限まで削ぎ落とし、更には人物の表情の
変化さえ満足に映さない。

更に推理の醍醐味である謎解きの常套手段を一切使っていない。
先ほども述べたとおり、謎解きの鍵となる説明的なセリフなどはなく、
シーンの中にさり気なく隠されている。

国や時間軸も過去と現在が交差するので、直進的に展開はしない。
しかも、ヒントになるような事が起こった時にさえ、そこに対峙している
人物の表情が隠れて見えないことも。
これでは、何を手がかりに「もぐら」を推理するというのか・・・。

それでも物語は着実に堅実に展開し、そして衝撃のラストへと
観ている者を導いてくれるのである。

そんな飲み込み辛いシーンの連続照射が炙りだすものは、
スパイという誰にも心を開く事の出来ない孤独な者たちの姿である。
そんな孤独を敢えて選び、その渦中に身を投じ忠義と猜疑のない交ぜ
になった中で生きる者たちが本当に守ろうとしたものとは・・・。

再三述べるが、これは推理だけを主眼とした映画ではない。

これは孤独を抱える者たちの物語である。

極力抑えられたセリフと表情描写によって張り詰めた緊張感を保ちつつ、
ちょっとした目配せや時折見せる微笑、抑えた末の感情の吐露が、
何倍もの感情表現となってこちらに訴えかけてくるのである。

こういう表現を見せられると、常日頃私たちは何と形骸化し陳腐化した
感情表現や場面を見せられる事に馴れきっているのかと思う。

まさに百戦錬磨のツワモノ役者陣が剣を競うが如く、抑えに抑えた
演技を繰り出し合い、この映画を見事に成立させている。

スパイ映画によくある要素が一切出てこない、地味な映画ではあるけれど、
孤独な人間の心の深淵を覗くには最適の一本だろう。


「ぼくのエリ」で一躍名を揚げたトーマス・アルフレッドソンの面目躍如たる
映像表現に陶酔し切った至福の2時間、十分堪能した次第。

また、原作本は続編があるとのこと、是非映画も続編を期待したい。

と、1回目を観終わった感想を思いつくままに取りとめなく書いたわけですが、
既に購入してある原作本をGW中に読み、推理部分その他を補完しつつ、
2度目に挑戦しようと目論んでいます。


「Tinker,Tailor,Soldier,Spy」

http://uragiri.gaga.ne.jp/


【備忘録的メモ】
5月17日時点で3回鑑賞。
原作本も読了。

以下、ネタバレを含みます。
更に、全くのメモ書きなので取り留めのない文章です。

ようやく1シーン1シーンをじっくり眺める余裕が出てきた。
全体像が判るからの余裕。
どのシーンがどこに繋がるのか、またどんな意味があるのかを味わえた。

ラストシークエンスの神編集は大画面で確認するとより素晴らしい。
あのLa,melの流れるなか、登場人物たちの激情が画面に横溢している感じ!

蜂のシーンも秀逸。
ギラムとスマイリーの性格(捜査、探査方法含む)
の違いを如実に表しているとどなたかのBlogで読んだが、
まさに、その通り。

<今回気づいたこと。>
説明が少ないので、複雑な仕掛けがあるのかと思ったが、
推理のロジックは比較的単純。

ずっと表情も感情も表出させてなかったスマイリー
(眼鏡シーンが象徴しているところの徹頭徹尾観察者としての役割)が
唯一激するシーンはビル(ビルが象徴する英国エスタブリッシュメント)
が余りに青臭い理想主義的で利己的な言い訳に対するものなのでは。
(アンの件ではないと思う)

数少ないスマイリーの感情の発露。
・クリスマスパーティーでのアンとビルを目撃する場面
・ビルとの接見での激昂
・戻って来たアンの姿を見てよろける

スマイリーは感情表現も推理経緯も殆ど表に現さないけれど、
この映画の登場人物中一番全てを把握し理論展開し胸中では
能弁に語っているし、激情家でもあると思う。
全てを胸に収めて淡々行動しているところに本当の冷徹さと怖さを感じる。
であるが故のGオールドマンは完璧なキャスティング

ビルとジムの関係、スマイリーとアン(カーラ)の関係、MI6と国との関係、
英国と米国の関係も?
それぞれの愛憎、忠義と猜疑。
裏切られ愛想を尽かしながらもなお愛さずにはいられないという、
どうしようもないせつなさが苦しい。
スマイリーとカーラの関係は特に敵対しながらもい絶対的な対としての存在。

70年代という世代は純粋に思想的美学を信じる事が出来た
最後の年代ではないか。
冷戦という判り易い構造(どちらにとっても善悪がはっきりしていた時代)
を精神的支柱にして正義を振りかざす事の出来た最後の世代。

ともあれ、この物語は組織に蹂躙された男たちの物語であり、
その悲劇性がより一層あのラストシークエンスのカタルシスを生んでいると思う。

何度観ても、というか観ればみるほど深みにハマる作品。
またもう一度劇場に足を運ぼうかと思う。

2012年4月19日木曜日

Spy

ファッションブランドPalu Smith丸の内店で開催されている
Tinker,Tailor,Soldier,Spy 写真展」を観に行ってきました。


この映画のクリエイティブサポートをしているのがデザイナー、
ポール・スミス氏ということもあり、映画のスチール写真展を丸の内店の
2階部分全て使用して開催しています。


到着してみて驚いたのは、私以外そこに人が居なかったということ。


映画のサントラと思われるBGMと映画のPVの音楽が薄く流れるなか、
とても贅沢な空間を独り占めしてしまいました。


ゆっくり一点、一点見ていると、ここそのものが映画的な空間だなと
思えてきて、お店の方に了承を得て撮影をさせて頂きました。


私以外誰も居ない空間で撮影していると、何か秘密を覗き見ているような、
そんな不思議な感覚に囚われてしまいました。

Palu Smith 丸の内店
http://uragiri0421.blog.fc2.com/page-1.html
http://www.vogue.co.jp/fashion/news/2012-04/12/paul-smith

2012年4月18日水曜日

いろはにほへと

色は匂へど 散るぬるを

まさに美しく香るように咲いていた桜もあっという間に散ってしまいました。
今年は余りの人の多さに桜の花の盛りの時はお花見に行きませんでした。

とはいえ、往き帰りにはお寺の桜を堪能させて頂きました。



春の花の代表といえば、桜。
やはり、咲くまでの期間に比して散ってしまうまでの盛りの短さは
人の世の儚さを映すようで、日本人には特別な思いを抱かせる花
なのだろうと思います。

全ては永遠ではない、常に移り変わっていくときを惜しみつつ
しかし、また新たに生まれる物事に思いを馳せ、新生な気持ち
になるのかもしれません。

そう思うと、やはり年度の始まりであるこの時期にとても相応しい花ですね。

今年は待った時間が例年より長かったせいか、散ってしまうのも早かった
ような気がしています。
でも、この名残惜しい気持ちが桜の醍醐味なのでしょうね。

2012年4月14日土曜日

豊作

豊作といえば季節は実りの秋ですが、
春なのに豊作とはこれ如何に?

今年は「映画」が豊作です。
とはいえ、私好みのという注釈付きですが・・・。

既に今年に入ってから新作を7本観ています。
(1本観逃しているものがあるので8本公開されています)

今までも映画は好きなので、これは!と思ったものは
劇場に足を運んでいますが、今年はその頻度が違います。

私は割りと映画の好みが偏向している傾向にあるので、
これは!と思うことが少ないのです。

でも、今年はこれは!と思う映画が目白押しで公開されます。

以下、今後観に行こうと思っているものをご紹介。

4月21日公開予定
「ティンカー・テイラー・ソルジャー・スパイ」(邦題「裏切りのサーカス」)
この邦題が好きじゃないので、あえて原題で。
スパイ映画とはいっても、「007」や「ミッション・イン・ポッシブル」のような
ハデなアクション映画ではありません。

じっくりじっくり隠された複雑な謎を探っていく物語のようです。
監督は「ぼくのエリ」という映画を撮ったスウェーデン人
トーマス・アルフレッドソン監督。

「ぼくのエリ」もセリフ、場面の装飾ともに極力無駄を省いていながら、
ストーリーを語る手際の良さと演出は抜群。

まさに北欧家具のような映画とでも言えばいいのか、本当に素晴らしい映画でした。
その監督が撮るスパイ物!これは絶対に見逃せません。
(しかし、この邦題なんとかならなかったんでしょうか?今時サーカス=MI6と
分かる人がどれだけいるのか・・・、語呂含め原題そのままの方が良いと思うけど)

さらにさらに、キャストも最高で、主役のゲーリー・オールドマンを始め、
英国王のスピーチでアカデミー賞を取ったコリン・ファース、
インセプションや今年公開される予定のバッドマンライジズの悪役に
抜擢されたトム・ハーディー
ガイ・リッチー映画やキック・アスなどでお馴染みマーク・ストロング、
BBCの現代版シャーロック・ホームズを演じたヴェネディクト・カンバーバッチ。
と、錚々たる英国俳優共演の妙もまた楽しみのひとつです。

http://uragiri.gaga.ne.jp/

と、まだ1本しか紹介していないのに、この長さになってしまいました。

この他、
「ロボット」「私の生きる肌」「11.25自決の日 三島由紀夫と若者たち」
「アメイジング・スパイダーマン」「グスコーブドリの伝記」「ダークナイトライジズ」
「トータル・リコール」「プロメテウス」「アウトレイジ2」「007スカイフォール」
「ア・デンジャラス・メソッド」etc・・・

その他にも、どーしようかなあと思っている作品もいくつかありますし、
公開直前にならないとどんな映画が分からないものもあったり、急に
公開が決定するものもあるので、まだまだ増える可能性はあります。

こんなに行こうと思う映画が沢山ある年は本当に珍しいです。

さらに、名画座で旧作を観ることも多いので、今年は私にとっての
本当に映画「豊作」の年ということになりそうです。

※つくづく我ながらジャンルはバラバラなのに狭い好みが反映されいるなと思ったり

2012年4月11日水曜日

屈しない情熱

学生の頃はラジオをよく聴いていましたが、
社会人になり、ラジオを聴く習慣がなくなってしまいました。

しかし、ここ数年はPodcastという便利なシステムのおかげで
すっかりラジオファンに。
いろいろな番組を聴きますが、今はTBSラジオの「たまむすび」
という番組を毎日のように聴いています。

その番組の火曜日に映画を紹介するコーナーがあるのですが、
昨日の放送を聴いて、その内容に衝撃をうけました。

そこで紹介されていた映画はイランの映画で、
これは映画ではない
というタイトル。

イランといえば、いまだ厳格なイスラムの教えを守り、民主主義国家とは
違った国家体制や習慣を持つ国です。

今まではイラン映画というと子供が主役の物語が多かったと思います。
それは、やはりイスラムの国では様々な制約があるという事だからだそうです。
なにしろ映画を撮る前に当局にシナリオを見せなければならず、少しでも
当局の意に沿わないセリフは全て削られてしまうとのこと。

そんな国で新しい映画を撮り続けているジャファール・パナヒ監督。
以前彼が撮った「白い風船」は裕福な子供が初めて金魚を買いに行く話しで、
ハラハラドキドキする(初めておつかいのような感じ)物語だそうですが、
最後に映されるのはセリフの無い貧しい子供の姿。
それがとても印象に残るのだそうです。

当局としては、貧しさや不平等的なことは映画にしてもらいたくないでしょう。
しかし、パナヒ監督はそれをうまくすり抜けて素晴らしい映画を撮ってしまうのです。

そんなパナヒ監督は2009年に行われた大統領選挙でアフマディネジャド大統領
の対抗として出馬したミル・フセイン・ムサビ候補を支援。
結果はアフマディネジャド大統領が勝ってしまいます(得票に不正疑惑がある)
そして、6年間の実刑と20年間の映画制作を禁じられます。

保釈金を支払って釈放されたものの、自宅軟禁状態であり、国外に出ることも
叶わず、そしてもちろん映画を撮ることもできない。

そんな中、ある方法で映画を撮ってみせた・・・、それが
「これは映画ではない」という作品。

この話を聴いて、映画を撮りたいというその情熱、どんなに抑圧されても
決して屈しない強さに、心の底からの尊敬と憧憬を感じずにはいられませんでした。

私はたまたまこの現代日本に生きているおかげで、様々な表現方法を
駆使した映画を沢山観ることができ、それについて、こうしてBlogで自由に
感想を書き表現することが出来ますが、そんな些細な事が些細ではない国
があるという現実。

世界には様々な宗教、習慣、価値観を持った国と人がいますので
一概にこれは善、これは悪と分けることなど出来ません。
でも、やはり他者を抑圧することのない国が増えたらいいなと思ったのでした。

それにしても、この映画もですが、この監督の映画観てみたい!

「たまむすび」
http://podcast.tbsradio.jp/tama954/files/20120410_machi.mp3
※1週間で配信が終わるそうなのでお早めに!

2012年4月9日月曜日

春きたりなば

先日まで風は冷たくて、春の暖かさを余り感じることができませんでしたが、
ようやく、陽光も気温も春らしくなってきました。

春には春の様々な楽しみがあります。

お花見はその筆頭にあげられるものですが、
私はお花見と同様に春を味わうことも、とっても楽しみです。
(全ての季節で同じコト言って・・・食いしん坊過ぎますね)

3月(早いものでは2月)くらいになると、お店で山菜をみかけるようになります。
まさに、山の養分をじっくり蓄えて冬を越した滋味を感じさせてくれます。

10代までは山菜の美味しさがちっとも分かりませんでした。
苦いし、独特のエグ味はあるし、見た目の色も鮮やかではない・・・。
何だかお年寄りの食べ物といった感じでした。

ところがところが、20歳を過ぎてどんどん味覚が変化してきて、
いろんな味を美味しいと感じる事ができるようになってきました。
特に、苦味やアクの強いものも、独特の風味と感じることが出来るようになり、
ぐんと味覚の世界が広がったのでした。

春はフレッシュな山の恵みがメニューに並びますが、
また一方、海の幸もこの季節ならではのものがお目見えします。

そんな中でも、この「ホタルイカ」は春の到来をヴィヴィッドに感じさせて
くれる海の幸です。

先週の金曜日にたまに行く築地のお店に「ホタルイカ入ってます?」と
きいたところ、「入ってますよ」の答え。

もう矢も盾ても堪らず、友人にメールしたところ、「行きたい!」との返事。
その友人と去年そこのホタルイカを一緒に食べて感激した情景が蘇ってきました。
仕事が終わった金曜日の夜、キラキラ光るワタがたっぷり入った甘いホタルイカ
を十分堪能。
“春きたりなばホタルイカ”

2012年4月8日日曜日

さくら遠景

上野の山に桜の季節が巡ってきました。

ここ数日であっという間に満開、見頃を迎えて近所は大賑わいです。

お花見というと、上野恩賜公園の桜並木が有名ですし、本当に
驚くほど大勢の人たちがお花見をしています。

その他では昨年ご紹介したように、上野の山や谷中方面に数多く
存在する寺社に植えられた桜を鑑賞する人も大勢います。

あ、そうそう谷中墓地の桜並木も有名で、この季節はお彼岸以上に
人が多いのではないでしょうか。

ところで、上野といえば不忍池も有名ですが、不忍池というと
やはり夏の蓮というイメージが強いと思います。

しかし、不忍池の周辺も桜木が植えられていて、桜が綺麗に
咲いています。
しかも、冬の名残の枯蓮と水鳥が池に映えて、季節のうつろいを
感じさせてくれます。

桜は近くで見るもの良いですが、他の動植物と一緒に遠景で
眺めるのも良いものですよね。

2012年4月5日木曜日

Camellia

昨日の台風かと思うほどの嵐とは一転して、
今日はとても気持ちの良い晴れた一日でした。

台風一過もそうですが、雨や激しい風が吹いた後は
汚れていた気が一掃されたかのように気持ちの良い
空気になるような感じがします。

とはいえ、今回も日本各地で大きな被害を出した
嵐でしたから、やっぱり自然の力は本当に侮るべからず、
と思いました。

ところで、上野の山の桜も徐々に咲き始めて、
まさにこの地域のオン・シーズンが始ろうとしています。

2日(月)の夜に所用で上野公園の桜並木を通ったのですが、
まだ桜も余り咲いていないにも関わらず、結構なお花見客で
賑わっていました。

まだ夜は寒いのに、日本人はやっぱりこの季節を本当に心待ち
にしているのだと改めて思った次第です。

ところで、桜の話題をしておきながら、先日みかけた
椿がとても可憐で綺麗だったのでご紹介。

よく見かける椿は五弁のものが多いように思いますが、
これはちょっと珍しい品種なのかなと思います。

このままコサージュにでもしたいような姿でひっそりと咲いているのが
印象的でした。

今はみな視線は桜に集まっていますが、他の花々も咲き始めていますよ。
春ですね。